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税制改革
(後編)



作:逃げ馬







 翌日

 僕は、いつものようにオフィスに行くと、自分の席に座った・・・半日だけでも仕事をしよう・・・そう思いながらコンピューターのキーボードを叩くのだが、まったく集中できない。
 周りのスタッフ・・・川村さんや来栖さんも、いつもとは違う雰囲気は感じているようだ・・・そして、それが何かということも・・・。
 逆の立場なら、僕だって言葉をかけることなどできないだろう。
 結局、何もできずに午前の仕事は終わった・・・これから僕は『早退』だ。
 「それでは、お先に失礼します」
 「お疲れ様でした」
 「お疲れ様」
 挨拶を返してくれるみんなの視線も、どこか淋しそうだ。
 僕は、皆と視線を合わせないように部屋を出ると、役所に向かった。
 そして次に会社に来る時には・・・僕は“今の僕”ではなくなっている・・・。 


  

 役所に着くと特設の窓口に向かった。
 相変わらず窓口の前には男性たちの行列ができている。
 僕は窓口に座る女性に、“特別措置申請用紙”を差し出した。窓口の女性が記入をした内容にさっと視線を走らせる。
 「今後、申請内容は撤回をすることができませんが、よろしいですか?」
 「はい?」
 「ですから、女性になった後で“やはり男性が良い”と言われましてもこちらではどうすることもできませんので・・・?」
 女性の言葉には、僕の心に突き刺さった・・・もう男には戻れなくなる・・・そう思っても、それなら女にならなくても生活をしていけるのか? そう考えていると、気が重くなり俯いてしまう。 そう、ここに並んでいる男性たちと同じように・・・。
 「どうされますか?」
 女性の声に現実に引き戻された。
 僕はもう一度書類に視線を落とした・・・大きく息をつくと、
 「・・・お願いします」
 女性は僕の方を見もせずに、大きな判子を書類に押すと、後ろに置かれた箱の中に放り投げた。
 「では、あちらの部屋に行ってください」
 女性の指差した先には、ありふれたドアがあった。そのドアを開けた先には、男性が一人いた。部屋はまるで衣料品店の試着室のようにカーテンで仕切られたスペースがならんでいる。
 「こちらで服を脱いで、中のガウンに着替えてください」
 僕は頷くと中に入ってカーテンを閉めた。服を脱いでいると、カーテンの向こう側から、
 「終わりましたら、反対側に出てください」

 僕は下着まで脱いで、中に置かれていた薄いガウンを身に着けた。
 カーテンを開けて反対側に出ると、色分けされたパイプのつながった金属製のカプセルがいくつも並び、まるで工場のような光景があった。
 あまりに場違いな光景に僕が立ちすくんでいると、黒いスカートスーツを着た小柄な女性が近づいてきた。
 「立石和也さんですね」
 かわいらしい笑顔で話しかけてきた。
 「はい・・・そうですが?」
 女性はカプセルの横についたカバーを開けた。ボタンを操作すると空気の抜けるような音がして、カプセルの前が開いた。
 ベッドのようになっている。
 「では、中に入ってください」
 「エッ?」
 僕が怯えたような表情をしたのだろう。 女性はクスクスと笑った。
 「大丈夫ですよ・・・さあ」
 女性に促されて、僕は渋々カプセルに入った。
 中に入る前に、部屋に並んだ銀色のカプセルをもう一度見た。
 『まるで・・・昆虫のさなぎのようだな・・・』
 そう思いながら、僕はカプセルの中に入った。
 女性がカプセルの横のボタンを操作している。
 「・・・怖いのはわかりますよ・・・わたしもそうでしたからね。でも、終わってしまうと新しい自分になって、気分が良いですよ」
 「エッ?!」
 聞き返そうと思ったそのとき、カプセルの扉が閉まってしまった。
 小さな窓から、彼女がこちらを見て何かを言っているが、まったく聞こえない。
 「聞こえないよ?!」
 カプセルの中で必死に叫んでいる僕に向かって、ピンク色の煙のようなガスが噴出してきた。
 苦しくなるわけでもない・・・よい香りのする煙・・・。
 急に眠くなってきた。
 僕は必死に意識を保とうとしたが、そのまま深い眠りに落ちて行った・・・。



 「・・・」
 誰かが、僕の名前を呼んでいる。
 目を開けると、眩い光に目がくらんだ。
 「立石さん・・・気がつきましたか?」
 さっきの女性の声だ。 僕は起き上がろうとしたが、思うように体に力が入らない。
 彼女に助けられながら、ようやく上半身を起こした。
 「・・・?」
 胸が重い。 忘れていた…いや、認めようとしなかったその意味を改めて感じながら、自分の体を見下ろした。
 胸には今まで存在しなかった大きな膨らみがあった。 “男だった時”とは違う、ピンク色の大きな乳首が自己主張をしている。
 さらに視線を下に落とすと、ウエストには男性にはあり得ない括れが出来ている。そして股間には長年親しんできた物が綺麗に無くなり、すっきりとしてしまっている。
 そして振り返ると、大きく膨らんだヒップと、そこからスラリと伸びた太もも。足からは脛毛が綺麗に消えてしまっている。
 男だった時ならば、思わず目で追ってしまいそうな“美脚”だ。そう、“男だった時”ならばだが・・・?
 「どんな女性になったか、楽しみでしょう?」
 あの女性が可愛らしい微笑みを浮かべている。
 「鏡を持ってきますね♪」
 やがて女性が大きな姿見を持ってきた、そこに映っているのは・・・?
 「・・・・?」
 そこに映っていたのは、“自分の理想の女性”だった。
 僕はしばらく自分の姿に見惚れていたが、突然、恥ずかしくなってきた。そう、僕は“裸”だったんだ。
 大きく膨らんだ胸と、すっきりした股間を手で隠しながら僕は床に座り込んだ。
 自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
 「大丈夫よ・・・こちらに来て」
 係の女性が、抱き起こすように体を抱いてくれた。
 「こちらに服も準備をしているから・・・」
 係の女性が連れて行ってくれた部屋には、ブラジャーやショーツなどの下着や、ブラウスやスカート、ワンピースなどがたくさん並び、まるで街のブティックのようだった。
 そこで、男だった時にはありえない鮮やかな色の下着を身につけ、選んでもらったワンピースやスカート、スーツを着てそのたびに鏡を見る。
 鏡に映る女性は、ちょっと戸惑ったような表情で鏡の向こう側からぼくを見ている。
 白いブラウスと紺色のジャケット、男だった時はありえないくらい大きく膨らんだ胸元についている大きなリボンがアクセントになっている。
 同じ紺色のひざ丈のタイトスカートから伸びる足は健康的な脚線美を感じさせる。
 そして視線を落とせば、鏡の美女と同じ服を自分が来て、スカートからは美しい足が伸びている。
 「お綺麗ですよ」
 振り返ると、係の女性が微笑みながら僕を見つめている。
 「・・・きれい・・・?」
 戸惑う僕に、女性は、
 「はい・・・お綺麗ですよ」
 綺麗・・・男だった時には全くありえなかった言葉が、ボクの心に突き刺さる。
 『綺麗・・・このボクが?』
 綺麗・・・その言葉がボクの心の中でグルグルと回っている。
 視線をもう一度、あの鏡に戻した。
 “美しい女性”がこちらを見つめている。
 しかし、それは鏡に映っている自分自身の姿なのだ。
 ボクは知らず知らずのうちに、鏡に向かっていろいろな表情をしてみたり、ポーズをとったりしていた。
 係の女性は、微笑みながらその様子を眺めていたが、
 「では、そろそろこちらへ・・・」
 選んだ衣服を入れた紙袋を僕に手渡しながら、ボクを会議室のような部屋に連れて行った。
 パンプスを履いた細い脚は、自然に内股になり“女性的な歩き方”で、係の女性について歩いて行く・・・・そんな歩き方など、今まで全くした事はないはずなのに。
 その部屋では、多くの“美しい女性たち”が、役所の制服を着た女性から何かの説明を受けていた。
 僕も係の女性に促されるままに、椅子に腰を下ろした。
 それから僕は、彼女から今後のこと・・・女性になった後の生活について説明を受けた。
 係の女性が、新しいボクの住民票を置いた。そこには“ボクの新しい名前”が書かれている。
 「立石あかね?」
 「はい、“立石あかね”・・・あなたの新しい名前です」
 そう言うと、彼女はやさしく微笑みながら、
 「今のあなたに、ピッタリの名前だと思いますよ」
 彼女は机の上に置かれていた書類をホルダーに入れると、僕の前に置きながら、
 「それでは明日、会社に行かれましたらこの書類を渡してください」
 これから“女性としての生活”が始まる・・・少し震える指で書類を手に取る僕に、
 「大丈夫です・・・きっと素晴らしい人生になりますよ」
 彼女はやさしく微笑んでいた。



 家に帰ると僕はドアのノブに手をかけ、玄関の前で立ち尽くしてしまった。
 改めて自分の体を見下ろすと、細く滑らかな黒髪が頬にかかる。
 白いブラウスを押し上げる胸の膨らみと、そこから腰に続く“女性にしかあり得ない“体のライン。そしてスカートから延びる美しい足。
 すっかり姿が変わり“娘”になってしまった僕を見て、両親は・・・?
 そんなことを考えていたその時、ドアが開いて母が顔を出した。
 「あ・・・あの・・・」
 自分のものとは思えない声で、戸惑いながら言うと、
 「和也・・・?」
 母は最初は驚いたような顔をしていたが、僕の態度で察してくれたのだろう。
 いつもと変わらない微笑みで、立ち尽くしたままの“娘に変わってしまった”僕を家に上げてくれた。
 父も母も、すっかり変わってしまった僕の姿に、最初は戸惑ったようだ。
 しかし、しばらくするといつもと変わらない態度で接してくれていた。
 家で過ごしてみると、それまでは気がつかなかったが、座ると自然に足を揃えて“女の子らしい座り方”をしているし、トイレに行くと戸惑うこともなく“座っている“のだ・・・あの機械は僕の体を変えるだけではなく、頭の中に“女性としての知識”も詰め込んでいたようだ。
 
「お風呂に入りなさい」
 夕食後、母に声を掛けられ、僕は役所でもらった衣類の中からピンク色のパジャマと上下お揃いの下着を手にお風呂場に向かった。
 “慣れた手つき”でスカートを脱ぎ、左右が異なるはずのブラウスのボタンをはずしていく。
 ブラジャーとショーツを脱ぐと、タオルを手にして浴室のドアを開けた。
 「アッ?!」
 わかっていたはずなのに、僕は立ち止まってしまっていた。
 浴室の洗い場の正面には、大きな鏡が取り付けられている。
 その鏡の中で美しい裸の女性が、戸惑ったようにこちらを見つめている。
 そして、それは今の僕の姿だ・・・・。
 「・・・きれいだ・・・」
 美しい女性になった・・・・僕の中に小さな優越感のようなものが芽生え始めていた。
 その夜、僕は男性だった時には考えれれないほどの長い時間、体を・・・長い髪を、丁寧に洗い、そして夜には・・・「自分の新しい体を探検」していた・・・。



 翌朝

 枕元で目覚まし時計が鳴っている。
 わたしは眠い目をこすりながらアラームを止めると、伸びをしてから体を起した。
 『なぜこんなに眠いのだろう?』一瞬考えたが、昨夜の「探検」を思い出すと頬が熱くなる。
 わたしは・・・『わたし?』なぜか自然に“女性らしい言葉”が出てくる。この体に慣れてきたのかな?
 わたしはクローゼットを開けた。 小さくため息をつく。
 中に入っているのは、男物の服ばかりだ。
 それが当たり前・・・昨日までわたしは男だったのだから。
 でも、心の中では違和感がいっぱいだ・・・昨夜のうちに入れ替えておくべきだったな・・・今のわたしは女の子だから・・・。
 わたしはハンガーにかけておいたスカートとブラウスに、落ち着いた色のジャケットを合わせて着た。
 鏡の前でポーズをとる。雑誌のモデルにでもなりそうな美しい女性が、わたしと同じポーズをとる・・・そして鏡に映る女性はわたしなのだ。
 「よし!」
 身支度を済ませたわたしは、台所で両親と一緒に朝食をとると、
 「行ってきます!」
 元気に会社に向かって手掛けて行った。

 

 『3番線に中央特快が入ります・・・』
 アナウンスが流れると、オレンジ色の電車が駅に滑り込み、ホームにあふれる乗客たちを飲み込んでいく。
 しかしその様子は、数日前とは明らかに違う。
 車内はまるで女性専用車・・・・乗客の大半は美しい女性なのだ。
 その様子は都心のターミナルでも、地下鉄でも、そして会社の近くでも変わらない。
 オフィス街を歩く人たちの大半は年齢の差こそあるが女性なのだ・・・・そう、わたしも確かに昨日までは男だったのだが・・・。
 会社に着くとオフィスに入る。来栖さんと川村さんがこちらを見た。
 「おはようございます」
 声をかけたが、少し戸惑っているようだ。
 「あの・・・あなたは?」
 戸惑う川村さんに、
 「立石です・・・」
 わたしは、ちょっと頬を赤らめながら、昨日役所でもらった書類を手渡した・・・。
 「立石さんも・・・女の子になっちゃったんだ・・・」
 来栖さんが寂しそうに笑った。
 その時、
 「おはようございます」
 後ろで声がした。振り返るとわたしとそう年の変わらない女性が立っている・・・。
 「立石?」
 女性がにっこり笑う。 その顔には見覚えが?
 『役所の前で会った女性…?』
 「あ〜〜〜〜っ?! 田代?!!」
 「あたり! やっとわかった?」
 女性に変わった田代が、ケラケラ笑う。
 みんなもつられて笑っている。
 しかし田代の笑い声は、わたしの知っているそれではない。
 口に手を当て、女の子の笑い方で笑う田代・・・それがわたしには、どこか悲しかった。
 「よし!」
 「何?」
 川村さんが突然声をあげ、3人が彼女を見つめた。
 「二人とも女の子になったんじゃ仕方がない! こうなれば私たちが“OLのお楽しみ”を二人に教えてあげよう!」
 「うん・・・それが良い!!」
 来栖さんも笑う。
 わたしと田代は小さく頷くと、お互い見つめ合って微笑んだ。



 同刻・高級料亭の一室

 金田権太郎は同席している男たちを見回すと、老人性の染みが浮き出た顔に満足そうに笑っていた。
 「上手くいったな・・・?」
 喉の奥で「クククッ」と笑った。
 「先生のおかげで、わが社は大きな利益を上げることが出来ました」
 TS総合技研社長の高田が畳に頭を擦りつけるようにペコペコしていた。
 「これは先生への、少なくて申し訳ありませんが・・・お礼です」
 そういうと、金田の前にアタッシュケースを置いた。金田がアタッシュケースを開くと、
 「フン・・・」
 小さく鼻を鳴らしたが、その顔には笑みが浮かんでいた。
 「TS総合技研が利益を上げたのは、結構なことですが・・・」
 同席していた財務官僚が、金田の方に向き直った。
 「性別変更をした人間が予想を大きく上回ったので、税収が予想を大きく下回ってしまいます」
 「大したことではない・・・」
 出された料理に箸をつけながら、金田は横目で官僚を見つめていた。
 「以前から”男女同権”と女性が叫んでいたじゃないか・・・」
 金田がクククッと笑う。
 「“男女同権”なら、税金も同じように納めてもらおう。 性別税の税率を同じにすれば一件落着というわけだ」
 「さすがは金田先生!」
 高田が合の手を入れると、座敷に笑いが起きた。
 「そう言えば・・・」
 高田がいやらしい笑みを浮かべた。
 「・・・うちの者に聞きましたが、金田先生は女性化した者に“女らしい女”になるように暗示をかけるように仕組んだとか・・・?」
 先生もお好きで・・・と笑う高田に、
 「“大和撫子”がすっかりいなくなったからなあ・・・この機会に昔ながらの大人しい日本女性が復活しても良いじゃろう・・・」
 金田もいやらしい笑みを浮かべて笑った。 その時、
 「お客様、困ります!!」
 廊下から女将の大きな声が聞こえ、それと同時に荒々しい足音が座敷に近づいてくる。
 荒々しい音で障子が開くと、そこにはスーツを着た男が立っていた。
 「なんじゃ・・・早田か?」
 無粋な・・・と言いながら、金田は横目で早田を睨んだ。
 「これを見てください!」
 言うと同時に、早田は手にしていたファイルを金田の前に投げていた。
 「20代から50代まで・・・男性の80%以上が性別変更を申請して女性になってしまいました・・・」
 「その事か・・・」
 金田は舌打ちをすると、
 「だから税率は男女共通にすることに・・・」
 「そんな事ではありません!! あなた達は自分の事ばかりで、国民の痛みが分かっていない!!」
 早田は苛立たしげに叫んだ。
 「若い20歳代から30歳代の男性でも8割が女性になった・・・・この意味がわからないのですか?」
 金田は早田が投げて畳の上にあったファイルに視線を落とした。そこには男女比率が変わったことで、これから起きる50年間の人口の予想推移の資料が閉じられていた。
 制度の実施前でも若年層は少子化が進んでいた。
 それが制度実施後には男性人口が大幅に減り、女性の人口が増えた。
 経済状態の悪化からか、結婚をする人も減っていた。
 それが現在の出生率で・・・いや、多少出生率が改善したとしても男性の人口が以前の2割しかない?
 つまりこれから生まれる子供は減り、いわば、“ハイパー高齢化”が始まり、この国の人口の大幅減少がが起きる・・・早田はそう予想していた。
 「高齢化だけではありません、若者が減ると労働人口も減る。商品の買い手が減って国の経済規模も小さくなる・・・」
 早田は懸命に落ち着こうとして、静かに話した・・・しかし、それはこの座敷にいる『この制度に関わった者たち』にこの国の暗い未来を認識させることになった。
 「一時的に税金が増えたと喜んでいても、そのつけはとてつもないものになる・・・いわば、この制度でこの国を滅ぼす“引き金”を引いたのかもしれません・・・」
 「“一夫多妻制”だ・・・」
 金田が吐き捨てるように言った。
 「“一夫多妻制”を公式に認めればいいじゃないか・・・そうすれば子供は増える!」
 早田は憐れむような眼差しで金田を見つめた。
 「聞きましたよ・・・あなたは性別変更の時に、女性化する人にあなた好みの“大和撫子”になるように潜在意識に埋め込み、彼らが好奇心で“女性になった体”を触った時に発動をするようにしていたとか・・・?」
 「誰が漏らしたんだ?!」
 金田が血走った眼で早田を睨み、年老いた体は興奮で震えている。
 「・・・あなた好みの“大和撫子”は、“一夫多妻制”で“第二夫人や第三婦人になるのですか?」
 「クッ・・・?!」
 金田が唇を噛んだ。
 高田と官僚は体を震わせながら、早田と金田のやり取りを見つめている。
 「わしにこんな恥をかかせおって・・・」
 金田が早田を睨んだ。
 「このまま東都大学にいれると思っているのか? わしがその気になれば・・・」
 「大学は辞めました」
 早田が笑った。
 「・・・私もある意味では、あなたの政策の片棒を担ぎました・・・」
 小さくため息をつくと、
 「この件には関わらなかったといっても、あなたに政策のアイディアを出し、このような国民に対して悪い政策を止めることを怠った・・・その責任は取らなくてはなりません・・・」
 早田は金田に背を向けた。
 「どこへ行く?!」
 「この国にも、まともな政治家はいるでしょう・・・そんな政治家を見つけて、一緒にこの国を立て直す方法を考えます」
 早田が廊下を歩いて行く。 金田をはじめ、座敷にいた誰もが早田を止めることが出来なかった。
 「・・・わしが・・・・わし・・・が・・・」
 金田が体を震わせる。
 「・・・この国を滅ぼすというのか・・・?」
 金田が苦しげに胸を掴むと、前に置かれた膳にかぶさるように倒れた。
 「金田先生?!」
 「女将・・・救急車を?!」
 高田と官僚の、悲鳴のような声が響く。



 料亭を出た早田が、街を歩いて行く。
 早田はこれまでに感じたことのない緊張感を感じていた。
 「あの予測は・・・間違っていない」
 では、その予測をした悲劇的な結末を避けられるのか?
 「・・・できるはずだ・・・」
 今はまだ分からない・・・しかし今も、そして未来も、この国では人が生き続ける。
 そのためにも、その方法を見つけなければならない。
 早田の前から、4人の若い女性が歩いてきた。楽しそうにおしゃべりをして、その表情は今の早田とは大違いの明るさだ。
 早田も自然に笑顔になった。
 「そう、若い人たちには力がある・・・信じよう・・・明るい未来を」
 そのためにも方法を見つけよう・・・早田は女性達とすれ違うと、街を力強く歩いて行く。


 「女性初心者の君達には、いろいろ教えてあげなくちゃね!」
 「そうそう、まだ二人は新人なんだから!」
 川村さんと来栖さんが、私と田代の顔を見ながら、悪戯っぽく笑った。
 仕立ての良いスーツを着た中年男性が、そんなわたし達を見ながら微笑みながら歩いて行った。
 「まず、美味しいスイーツを食べて、オシャレをして・・・」
 川村さんと来栖さんが、お互い顔を見合わせると、わたし達を見ながら言った。
 「ちょっと、ちょっと・・・?!」
 戸惑う私たち二人を見て、川村さんと来栖さんが明るく笑った。
 私達も、つられて笑いだす。

 女性になると周りがどうなるかと、私は不安だった。
 しかし両親も、仲間達も温かく接してくれている。
 私の中で、不安は少しずつ消えて行った。
 そう、わたしはこれからも生きて行く・・・女性になっても、わたしは私なんだ・・・・。
 「さあ、それじゃあ教えてもらおうかな? “女の子ライフ”を?!」
 わたしがおどけて言うと、またみんなが笑いだす。

 秋風の吹く街を、わたしたちは元気に歩いて行った・・・。





 税制改革 後編

 (おわり)

 




 作者の逃げ馬です。
 今回も読んでいただいてありがとうございました。
 今回は『重いネタ』をテーマにしたので、書き手は大変でした。 
 次は、サクッと軽い物を書いてみたいですね。


 今回も、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


 尚、この作品に登場をする団体・個人は、実在のものとは関係のない事をお断りしておきます。


 2010年10月 逃げ馬
 



 
  



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